

TEXT 平山雄一
「長い間、言葉少なに愛し合ってきた恋人たちのように」
これほど幸福なアルバムは他にないだろう。20周年を迎えたTHE BOOMが放つ『四重奏』は、力強い"20周年讃歌"であり、これ以上ないほどストレートなラヴソング・アルバムになっている。
アルバムのオープニングを飾る「20-twenty-」は♪20年君と歩いた♪とバンドのキャリアをありのままに歌う。このところ20周年を迎えるバンドは多いが、これほど直接的に数字を歌うのは前代未聞のこと。音楽活動は単なる数字では区切れないものだが、あえて20と歌うTHE BOOMには確信がある。
「2年前から"20"という歌を書くアイデアがあった。こんなストレートな詞は歌ったことがないので、新鮮。こういうことが言えなかったから遠回りしていたのか、シンプルにやれる自信がなかったのか」と、作った宮沢は愉快そうに笑う。さらに「20-twenty-」は、♪20年君を待たせた♪とも歌う。
原宿ホコ天から出発したTHE BOOMは、スカを軸とした元気の良いビートを弾き出すバンドとしてバンド・ブームを牽引。90年代に入ると、沖縄をはじめ、ジャマイカ、ブラジル、キューバなどの音楽に傾倒して名曲「島唄」や「風になりたい」を生み出し、世界でもトップグループに成長する。それは音楽の源泉を探究する壮大な旅であり、冒険心むき出しのアグレッシヴな>変化の歴史でもあった。
「振り返ると、理想郷を求めて遠くへ遠くへ旅していた気がする。いろんなことをやってきて、何ひとつ後悔はしていないですよ。ただここにきて、楽園はもっと身近にあるなと思えてきた。今回のようにシンプルになるための20年だったのかもしれない」と宮沢。その言葉どおり、『四重奏』に収められている曲は、ハイブリッドなミクスチャー・サウンドではなく、素直な8ビートや王道のロッカバラードなど、シンプルでストレートな音楽性のものばかり。しかもそれらは、シンプルなだけに、20年のキャリアを持つバンドならではの味わい深さがある。同時に、激動の20年からの帰還を日本各地で待っていたファンへ向けての「ただいま」の挨拶のアルバムでもある。
これはある意味、20年目の"デビュー・アルバム"といっていい。それほど音楽を奏でるメンバーのフレッシュな歓びが、ひしひしと伝わってくる。
♪初めて出会った時と 同じように恋してる♪(「夢から醒めて」)、♪帰れる場所は 後ろにはない♪(「My Sweet Home」)、そしてアルバムのラストの「First Love Song」では♪「愛してる」 その言葉が君に言えずに 長い間 愛の歌 歌ってた♪と告白する。THE BOOMとファンとの関係は、まるで長い間、言葉少なに愛し合ってきた恋人たちのように、今、堰を切ったように愛の歌があふれ出す季節を迎えたのだ。
「シンプルに聴こえるかもしれないけど、これが"20年後のTHE BOOM"」と山川。
「何もしゃべらなくても、ただ演奏するだけで感謝の気持ちを伝えられるアルバム」 と小林。
「ライヴで歌うと、僕らを待ってくれていたお客さんの"幸せオーラ"を感じる」と栃木。
このアルバムでTHE BOOMは、新たなスタートラインに立った。よく歴史は"ディケード"=10年という単位で語られる。が、THE BOOMは20年をひとつの単位にしている。それはそのまま、このバンドのスケールの大きさを表わしている。